
世界中のスタートアップやデジタルノマドたちが交わり、学び合い、協業が生まれる。そうした国際的な「共創コミュニティのハブ」への挑戦が、いま梅田で広がりつつある。その中心にあるのが、FUTRWORKS(フューチャーワークス) だ。
梅田が「世界と関西をつなぐ国際交流拠点」となることを目指す「梅田ビジョン」の実現に向けて現場で推進する拠点ともいえるだろう。
本記事では、FUTRWORKSの成り立ちや、そこから生まれている数々の取り組みに加え、関わる人々の声を通じて、梅田ビジョンの独自価値の一つである『創造』の視点でも、梅田という都市のポテンシャルをひもといていく。
グローバルを見据えた国内外のスタートアップやデジタルノマドワーカーが集う拠点に
2024年1月に設立されたFUTRWORKS。その前身は、そこから10年前に遡る。2014年に設立されたスタートアップ支援拠点「GVH#5」がそれだ。大阪での起業文化の普及を目的に運営された「GVH#5」は、2019年からは海外スタートアップの日本進出を支援するアクセラレーションプログラム(※1)にも参画。プログラム実施3期で、合計約1,000社の応募を集めるなど、大阪が海外スタートアップを受け入れるポテンシャルを持つことを示してきた。また2022年には阪急阪神ホールディングスグループが「梅田ビジョン」を策定。梅田エリアの国際競争力向上を掲げる中で、「新産業創出の場」を都市に組み込む重要性が、より明確になった。この流れを受け、約10年にわたって培ってきたGVH#5の知見を発展させる形で、移転・リブランディングされたのがFUTRWORKSだ。
※1 アクセラレーションプログラム
スタートアップや起業家を対象に、アクセラレーターと呼ばれる支援者との定期的な面談(メンタリング)を通して、事業アイデアや新規ビジネスの検証・精査(ブラッシュアップ)を二人三脚で行っていく伴走型の支援(ハンズオン支援)を指す。

写真上段左から岡本信秀さん、津田知華子さん、田中敬済さん、下段左から和田百々葉さん、酒井晃穂さん、樋口賀美さん
「世界中のリモートプロフェッショナル(※2)が、日本でも安心して働き、自然につながれる場所をつくりたい」。そう語るのは、FUTRWORKSトータルコーディネーターの津田知華子さんだ。既存の枠組みにとらわれない働き方をする国内外の起業家やクリエイター、スタートアップ関係者、そして彼らを支援する企業やコミュニティ。そうした多様な人々が交わる場として、FUTRWORKSは再スタートを切った。単なるコワーキングスペースではなく、多様な人材やアイデアが集まり、新しいビジネスやコラボレーションが生まれる"共創コミュニティのハブ"を目指している。
※2 リモートプロフェッショナル
高度な専門性と自律性を持ち、場所にとらわれず世界中から価値を生み出す働き手。起業家、企業に所属するリモートワーカー、フリーランサーなどを含み、デジタルノマドもその一形態。

FUTRWORKS設立にあたり、津田さんは世界中のデジタルノマドが集まる拠点の視察にも足を運んだ。訪れたのはポルトガルとバリ。「どのような空間づくりや設備がユーザーにとって魅力的なのか、実際に利用者の目線で見て回りました」と津田さん。
どちらの拠点にも共通していたのは、オンとオフを自然に切り替えられる空間設計だった。作業エリアの中でも会話可能なエリアと、静寂を保ち集中できるエリアが明確に分けられている。さらに、カフェやジム、シャワーブースなど、働くこととリフレッシュを両立できる環境が整っているのも特徴だ。
津田さんは「特に印象的だったのが、バリのコワーキングスペースに併設されたプールでした。必ずしも利用するわけではなくても、その場所ならではの空気や開放感を感じられる空間だったんです」と付け加えてくれた。
梅田のど真ん中に位置するFUTRWORKSにプールはない。しかし、その代わりに大阪の景色を一望できるチルスペースやカラオケルームなど、利用者がリラックスしながら自然に交流できる空間づくりを取り入れた。さらに、抹茶のティーセレモニーや日本酒のテイスティングなど、日本文化を体験できるプログラムも展開している。

「世界を旅しながら働くリモートプロフェッショナルにとって、その土地ならではの文化やコミュニティに触れられることは大きな魅力です。ここが、日本企業やローカルコミュニティと出会い、新しいつながりが生まれる場所になれば嬉しいですね」と津田さん。
FUTRWORKSコラボレーターの田中敬済さんも「国内・海外問わず、利用者同士の交流を促進するイベントも積極的に実施しています。ヨガやキックボクシングなどのエクササイズを通じたグローバルな交流、ビジネスにおけるコラボレーションの創出など、さまざまな機会を作るようにしています」と続けてくれた。
スタートアップがチャレンジできる理由が、FUTRWORKSにはある
現在、FUTRWORKSには、国内外からさまざまな分野のスタートアップやリモートプロフェッショナルが集まっている。2026年1月時点で、スタートアップや彼らの成長を支援するサポーター企業など約50社が入居。入居には事前審査があり、「ITなどの先端技術やこれまでにないアプローチで新しいビジネスモデルや商品(サービス)の開発を目指す成長志向のスタートアップモデルであり、グローバル展開を見据えていること」が入会条件だ。
グローバルな展開の支援については、シンガポールにある2つのスタートアップ支援機関とスタートアップ・エコシステムの連携強化に向けた協定を締結したことが一例として挙げられる。関西からのスタートアップ進出支援と、シンガポールスタートアップの大阪・関西への着地という双方向での新産業創出が期待されている。
さらに、FUTRWORKSが他のコワーキングスペースと一線を画す理由は、グローバルなコミュニティ形成だけではない。スタートアップが梅田を活用した実証実験や協業に取り組みやすい点も大きな魅力だ。梅田は、オフィス、商業施設、交通インフラ、文化施設が高密度に集積するエリアだ。日本有数の都市として長年培ってきたネットワークや資産を背景に、スタートアップが都市機能と連動した実証実験を行うことは、梅田から世界へ、また世界から梅田へという双方向性の可能性を広げる力となる。
梅田の都市アセットを活用した象徴的な事例が、英国発のスタートアップTransreport Limitedの介助予約システムの実証実験だ。同社は、障がい者や高齢者などサポートを必要とする利用者向けに、鉄道利用時の介助予約をウェブで行えるシステムを開発している。阪急電鉄と連携し、1年以上にわたる実証実験を経て、2025年4月からサービスを本格開始した。
「Transreport Limited は、GVH#5時代に取り組んでいたアクセラレーションプログラムの採択企業で、3年間の事業伴走で日本法人の設立もサポートしました。同じプログラムからは、CRUST JAPANというシンガポール発のフードテック企業も日本法人を設立しています。こちらは、食品ロス削減と持続可能な社会の実現に向けて、大阪梅田ツインタワーズ・サウスで働くオフィスワーカーに、コーヒー抽出後の豆かすを使用したクラフトビールを提供しています」と田中さん。
他にも、グラングリーン大阪北館1階のフードホール『re:Dine(リダイン大阪)』を運営するfavyや、施設特化型モバイルオーダーシステムの開発と運営を行い、梅田のオフィスワーカーにデリバリーサービスを提供するスカイファーム、阪急32番街や阪神百貨店梅田本店で飲食店の混雑状況を可視化して情報提供を行うバカンなど、国内外を問わずさまざまなルーツを持つスタートアップが、FUTRWORKSに拠点を置き、梅田を舞台に彼らの技術や新しいサービスが社会実装につながっている。
国籍や文化の壁を超えてつながる絆が、新たな発見やビジネスの可能性を広げていく
海外から大阪・梅田に訪れるリモートプロフェッショナル向けには、ワンデー、ウィークリー、マンスリーといった様々な短期滞在パスを用意している。GoogleMAPの口コミやSNSを活用した地道な情報発信を積み重ねた結果、リピーターも増えつつある。
「梅田流のおもてなし精神を発揮し、地元ならではの情報提供を心がけています。中にはFUTRWORKSで新たなビジネスパートナーを見つけるケースも。自分たちがハブとなることで、それまで停滞していた流れがスムーズに動くと、とてもうれしくやりがいを感じます」と田中さん。
こうした多様な入居者同士の関係性を育てているのが、FUTRWORKSで継続的に開催されているイベントだ。例えば、これまで半年に1度、「FUTRFEST(フューチャーフェスト)」というプロモーションイベントを開催してきた。これは、世界各国から30名のリモートプロフェッショナルを招き、FUTRWORKSの活動内容紹介、関西の文化体験、観光地訪問を実施するというもの。十三での居酒屋バーホッピングや、小林一三記念館の茶室での日本茶体験は、毎回とても好評だという。阪急沿線だけでなく、和歌山県の白浜などにも足をのばし、関西各地へのアクセスの良さを実感してもらう機会も設けている。


「他にも、リモートプロフェッショナルの方々と、阪急阪神のオフィスビルに入居するオフィスワーカーさんが気軽に交流できるイベントを、2025年12月に試みました。『言語をきっかけにした自然な国際交流と関係構築』を重視し、英語力のレベルに関わらず参加できるようなイベント設計を心がけました」と田中さん。日本人はもちろん、スペイン人、フランス人、メキシコ人、インド人、セネガル人と多彩な国籍の人々が参加したといい、「日本語が流ちょうなFUTRWORKSのオーストラリア人スタッフが、スムーズに進行の流れを作ってくれていたおかげもあって、参加者からは『オフィスの外にこうした国際的なつながりがあるのは新鮮』『また実施してほしい』との声をいただきました」と、イベントの成功を語ってくれた。
「共創を生むのは人」という思想が、FUTRWORKSという「場」を魅力的にしている
FUTRWORKSが大切にしているのは、そこに関わる人々の存在だ。前身であるGVH#5での取り組みを含め、10年にわたってスタートアップに寄り添ってきた津田さんは、FUTRWORKSに「未来への大きな価値を生み出す土壌」としての新たな可能性を感じているという。
「過去のスタートアッププログラムは、ビジネス目線での着地にフォーカスを当てた取り組みがほとんどでした。アクセラレーションプログラムは、その代表的なものと言えるかもしれません。一方、今回のFUTRWORKSの取り組みを通じて集まってきているリモートプロフェッショナルの視点は、"人"に向いています。人が心地よくないと、その場所に長くいたいと思わない。心地よさを感じる街でビジネスをしたい、と思うのが本来の人間の姿。それに気づいたとき、改めて"ビジネスが育つ土台も同じだ"と腑に落ちました。ビジネスしやすい環境づくりは大切ですが、一方で多様な"人"を迎え入れ、暮らしやすい街づくりができれば、すごく強い街になる。そのような視点から見ると、大阪の人の温かさやウェルカム精神はなにものにも代えがたい無形の資産。世界遺産に匹敵すると思っています」と、笑顔を見せた。

実際に、数日の旅行滞在の予定から長期滞在に切り替えてくれる方や、何度も梅田へ来訪するリピーターも増加している。イベントを通じて新たなビジネスパートナーを見つけた実例もあり、FUTRWORKSが単なるコワーキングスペース以上の価値を提供していることが示されている。海外からの誘致は地域経済への貢献だけでなく、インバウンド戦略の観点からも重要で、彼らがひいては大阪での定住、日本企業との接点模索、起業といった長期的な視点での人材定着を促し、関西全体のプレゼンス向上に寄与していくことになるだろう。
「彼らのようなリモートプロフェッショナルを単に個人として呼ぶだけでなく、チームや企業単位で、さらにはまち全体でMICEを受け止めるなど、ビジネス面でのあらゆる要望に対して梅田が応えられるようなプラットフォームを機能させていきたいと考えています」と津田さんは続ける。
「集まる街」から「関係が連鎖し、拡大する都市」へ
――梅田のまちが「共創コミュニティのハブ」に
FUTRWORKSの取り組みが示しているのは、スタートアップやグローバル人材が「集まる」だけでなく、「定着し、そこから新たな繋がりが派生していく都市像」だ。
単なるビジネスの拠点や通過点ではなく、海外スタートアップやリモートプロフェッショナルが梅田というエリアと絆を深め、関係性を築いていく。居住する定住人口でもなく、観光による交流人口でもない、継続して地域に関わる「関係人口」が増えることで、関わった人々がファンとなり、さらに新たな人々を呼び寄せる。そうした関係人口の連鎖と拡大が起き"国際的なイノベーション拠点"へと変貌していく。そしてそこから新たなビジネスや協業が生まれる――。まさに、梅田ビジョンが目指す「共創で新しい価値を生み出すまち」の姿が浮かび上がってくる。
FUTRWORKSの挑戦は、一度に完成する大きな仕組みをつくることではない。現場での小さな実践を積み重ね、都市のあちこちに人の温度を宿らせ、イノベーションの種をスタートアップとともに植えていくこと。その積み重ねこそが、「梅田だからできる挑戦」を後押しする。抜群のロケーションで多様なニーズに応えるユニークな設備を備えつつ、関西特有のノリや新しいものを受け入れ、面白がるマインドのある大阪ならではの精神で、多様性を包み込むコミュニティの輪を広げていく――。グローバルを見据えたスタートアップや、世界を旅するリモートプロフェッショナルが集い、新たな関係性が連鎖し広がっていくことを目指し、FUTRWORKSはこれからも"世界と大阪・関西がつながるハブ"としての機能を担い続ける。