
梅田エリアの価値向上を図る構想「梅田ビジョン」。
梅田のあるべき姿として、『創造』『出会いと交流』『体験と発見』を3つの「独自価値」と定め、それらを高めることで世界と関西をつなぐ「国際交流拠点」となることを目指している。その中の一つ『創造』を具現化し、イノベーションによる新産業創出を象徴するイベントが開催された。
2025年9月16日(火)・17日(水)の2日間、梅田のグランフロント大阪 コングレコンベンションセンターで行われた「Tech Osaka Summit 2025」。前身となる「Hack Osaka」から大阪・関西万博を機にリニューアルして行われた本イベントは、単なるスタートアップイベントの枠を超え、「都市として大阪がどのようにスタートアップ・エコシステムと向き合おうとしているのか」を明確に示す場となった。国内外からスタートアップ、投資家、事業会社、行政関係者など約3,500人が集い、170社が出展、600件を超える商談が生まれたという数字は、その熱量と実効性を端的に物語っている。
だが、このイベントの本質は、参加者数や商談件数といった成果指標だけでは測れない。梅田という都市空間を舞台に、行政、民間、スタートアップ支援組織がそれぞれの立場と役割を明確にしながら、同じ未来像を共有し始めた点にこそ、Tech Osaka Summitの意義がある。本記事では、イベント開催の背景と意義、大阪市を中心としたイノベーション創出に向けた取り組み、そして梅田のスタートアップ・エコシステム形成を現場で支えるU-FINO(一般社団法人うめきた未来イノベーション機構)の取り組みについて取材した内容を紹介する。
Tech × Osaka 開催の意義──梅田に集積する挑戦と熱量
近年、日本各地ではグローバルスタートアップイベントの開催が相次いでいる。東京の「SusHi Tech」、愛知の「Tech GALA」、福岡の「RAMEN TECH」など、地域ごとの強みを前面に打ち出したイベントが都市の個性を形づくり、これまで大阪においても、年1回の国際イノベーション会議として「Hack Osaka」が開催されてきた。今回、大阪・関西万博を機に万博会場内で行われた「GLOBAL STARTUP EXPO2025」や、大阪市内各所で実施されたイベントとの連続性を背景に「Hack Osaka」をリニューアルして開催されたのが「Tech Osaka Summit 2025」である。

本イベントは、大阪市を中心に大阪産業局、U-FINO、都市活力研究所、JETRO(日本貿易振興機構)大阪本部の5団体が連携して運営するグローバルスタートアップイベントで、国内外の投資家やスタートアップ関係者を大阪へ呼び込み、交流と成長の機会を創出することを目的として企画された。会場では、スタートアップと投資家・事業会社による商談会に加え、バイオ・ライフサイエンス、ヘルスケア、グリーンテック、デジタルといった大阪・関西が強みを持つ分野の展示、シード・アーリー期スタートアップによるピッチコンテスト、第一線で活躍する起業家や投資家によるトークセッションが展開された。
「トークセッションでは、最新トレンドのご紹介もさせていただいたので、情報収集を目的に参加された方にもご満足いただけたと思います」と、実行委員会の担当者は語る。

参加者の多くは、「具体的なビジネスにつながる出会い」を期待して来場しており、会場内では立場や国籍を越えた交流が随所で生まれていた。各プログラムの評価も高く、「海外のスタートアップの動向を知ることができた」「ピッチコンテストについて、ここまでグローバルに徹したものは国内で他に経験がない」などの声が寄せられたという。他にも「普段会えない関係者と交流できる良い機会となった」「直接、商談につながる機会となった」とマッチングに関する声も寄せられており、単なる情報収集や名刺交換にとどまらず、参加者同士の「次へのアクション」も目立ったことは、「Tech Osaka Summit 2025」が"動き出すための場"としての機能を果たしたといえるだろう。
変化するイノベーション創出戦略──行政主導から、官民一体へ
これまで、大阪発のさまざまなイノベーションの推進やスタートアップ支援の取り組みを行ってきた大阪市。人材育成、スタートアップ支援、海外投資家・ベンチャーキャピタルの誘致、拠点整備などをこれまで段階的に進めてきた。その象徴が、グランフロント大阪 北館ナレッジキャピタルに設置された「大阪イノベーションハブ(OIH)」である。
OIHは2013年に設置され、大阪市のスタートアップ支援拠点として、相談対応やマッチング、情報発信のほか、新たな事業の創出やスケールアップにつながるイベント・プログラムをこれまで多く開催し、海外との接続も担う"公的ハブ"としての役割を果たしてきた。
国内はもちろん、海外からのアクセスも格段に進化した「梅田」という街は、大きなイノベーションを生み出すポテンシャルを持っている。梅田を中心とする関西エリア全体に目を向けると、京都大学、大阪大学、神戸大学という3大国立大学をはじめ、存在感ある公立大学、私立大学が数多く存在し、企業の研究所、ラボも多数存在している。取り組みを進める中で、そうしたエリア特性を最大限に活用するためにも、大阪市という枠組みにとらわれない、官民一体でのイノベーション創出・支援がますます必要となることが実感されてきた。
こうした中、「関西最後の一等地」と呼ばれた「グラングリーン大阪」のまちづくりにあわせて行政・経済界・民間事業者が連携する形で、2022年に設立されたのが「U-FINO(一般社団法人うめきた未来イノベーション機構)」だ。「Tech Osaka Summit 2025」開催においても実行委員会の構成員として参画した。官民一体の組織が加わることで、行政の施策の中に、民間の知見を融合させた新たなイノベーション支援の一端を、イベントという形で可視化する機会となった。「Tech Osaka Summit 2025」を通じて「大阪梅田発イノベーションの未来」の可能性がよりグローバルに広がり、国内外にアピールできたことは、大阪のスタートアップ・エコシステムが次のフェーズに入ったことを示したといえる。

官民一体の柔軟さが、関西発イノベーションの創出を支える
官民一体組織であるU-FINOは、さまざまな組織の出向者で構成されている。大阪市や関西経済連合会、グラングリーン大阪開発事業者からの出向者が、フラットな環境でディスカッションを行いながら、事業開発を行っている。
「U-FINO設立の目的は、社会課題解決と新産業創出に向けて、情報技術などをうめきた2期に集めることで、新しい製品・サービスやビジネスが生まれるエコシステムを構築し、大阪・関西におけるイノベーションの創出を推進することです」とプロジェクト推進・共創企画室マネージャーの森田政明さん。

U-FINO(一般社団法人うめきた未来イノベーション機構) プロジェクト推進・共創企画室 マネージャー/大阪都市計画局 拠点開発室 広域拠点開発課(北エリアG) 課長補佐
「具体的には、大阪・関西には大学や研究機関の集積が強みとしてあるので、新しい技術、豊富で優れた技術シーズを、社会課題解決に活かすべく、社会実装に向けたプログラムを実施しています。例えばディープテック分野の大学発スタートアップの事業化に向け、関西にある大手事業会社とマッチングするようなプログラムです」と同マネージャーの渡邉秀斗さんは続ける。

U-FINO(一般社団法人 うめきた未来イノベーション機構) プロジェクト推進・共創企画室 マネージャー/阪急阪神不動産株式会社 開発事業本部 都市マネジメント事業部 新産業創出・コンテンツ開発グループ
「事業化には、技術や資金だけでなく、場合によっては法的な整備など様々なリソースが必要となります。その活動は民間事業者だけでは実行が困難なので、私たちが行政、経済界とともに活動することで前に進めていきます」と渡邉さん。
さらに森田さんは「社会的インパクトを起こす、イノベーションを生み出すために必要な支援というのが私たちのメインの仕事です」と話す。

「Tech Osaka Summit 2025」では、関西の大学や研究機関発のスタートアップが出展するゾーン「イノベーションストリームKANSAI 9.0」をコーディネートした。これはU-FINOの前身である「うめきた2期みどりとイノベーションの融合拠点形成推進協議会」時代から手掛けてきたイベントで、「Tech Osaka Summit 2025」に合流する形で開催された。全体の中でも非常に集客力の高い展示ゾーンとなり、注目を集めた。
「組織としてこれまで培ってきた大学や研究機関とのリレーションネットワークをもとにコンテンツを提供できたことで、実行委員会メンバーとしてもイベントに貢献できたのではないかと思っています。
これまでのイノベーションストリームのようにU-FINO単独でカンファレンスを開催するのではなく、「Tech Osaka Summit」として一体的に開催できたことで、これだけの人が集まり、活発な交流が生まれた。大切なのは、ここで終わらせないことで、その"続き"を支えるのも私たちの役割だと思っています」と二人は、イベントを振り返ってくれた。
「Tech Osaka Summit 2025」が提示した梅田の可能性、そしてスタートアップ・エコシステムの未来像とは
「Tech Osaka Summit 2025」を通じて浮かび上がったのは、梅田エリアが持つ空間資産の規模感と、その活かし方に対する可能性である。大阪・関西には、大学や研究機関発の新しい技術が創出される土台があり、それらに関わる人や知見を梅田というハブに集約できるという、世界的にも稀な都市構造が形成されている。このこと自体がすでにグローバル水準の都市資産であり、この特性は他都市と比較しても大きな強みだといえる。
さらに、森田さんと渡邊さんは「梅田には、近畿2府4県すべてのビジネスにアクセスできるハブ的な役割があるだけでなく、うめきたエリアならではの魅力もある」と口をそろえる。グラングリーン大阪の大規模オフィス棟には、大手事業会社の研究所や本社移転、関西支社の入居が相次ぎ、イノベーション地区としての集積率が注目されているのだという。
「交通というハード面、クリエイティブな発想を生む緑あふれる環境、独特のイノベーションフレーバーとでもいうような空気感、それらすべてがセットで複層的なインパクトを持つエリアだと実感しています」と、梅田エリアの魅力を渡邊さんは語ってくれた。
そして森田さんは「関西には世界的な社会課題にインパクトを生む大学発イノベーションの土壌がある中で、その実証や事業化といった、次の展開へとつなげていく梅田のスタートアップ・エコシステムのグローバル化は、まだまだ始まったばかり」と現状を説明する。「グローバルという観点では、OIHは既にこれまでの活動でグローバルなプログラムを持っているので、そういったところとの連携も深めながら、梅田エリア全体としてグローバルスタンダードなスタートアップ・エコシステムをしっかりと醸成していきたいです」。
豊かな空間と経済規模、そして官民の一体的な活動によるスタートアップと事業会社のネットワーキング──イノベーションを生む与件は揃っている。今後必要となるのは、優れたイノベーションを受け止めて事業化し、さらにはグローバルな場へと広げていくことだ。「Tech Osaka Summit 2025」の成功によってその扉が開かれた今、梅田におけるスタートアップ・エコシステムのさらなる発展に期待が高まる。
Tech Osaka Summitの開催意義について(横山大阪市長)
この「Tech Osaka Summit 2025」はグローバルスタートアップイベントとして、より力を入れたいということで今年から始めました。大阪・関西万博で披露されたたくさんの技術やネットワークを次の大阪、関西、日本の街づくりに生かしていきたいと思っています。大阪イノベーションハブも新たにリノベーションし、その面積や機能の拡充を図りました。
万博後の大阪は若い力、特にスタートアップを一つの大きな政策の柱に据えて取り組みを加速させていく予定です。 今、世界の都市と大きな交流が進んでいます。 世界のいずれの都市も残念ながら大阪よりもはるかにこのスタートアップの環境整備という意味では進んでいます。ここに引けを取らない、負けない次の大阪を、次の関西を、次の日本を作っていきたいという思いです。
これからも人材育成やベンチャーキャピタルの誘致等を含めて環境整備を行い、エコシステムを確立して世界に冠たるスタートアップの拠点都市としてこの大阪を作っていきたいと思っております。
そのためにも皆さんのお力が必要です。どうかこれからも皆さんよろしくお願いいたします。
※Tech Osaka Summit 2025 閉会挨拶より抜粋・要約