梅田の地下道で体験を創り出す
――通過地点を目的地に変える、アーティストBas Kostersの挑戦

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多様な世代が交わり、まちが一体となって新たな価値やイノベーションを生み出していく――。そんな試みが、大阪梅田で始まっている。

大阪のまちを回遊しながら、アートやデザインとの新たな出会いを楽しむ「Osaka Art & Design(以下OAD)2026」。会期中のプログラムとして、日々多くの人々が行き交う大阪駅前地下道を舞台に、実験的なアートプロジェクトが実施された。

手掛けたのは、オランダ・アムステルダムを拠点に活動するアーティスト、Bas Kosters(バス・コスタース、以下Bas)氏。Bas氏は地下道で自身の作品を展示したほか、関西の服飾・デザイン系専門学校3校、計25名の学生たちとのワークショップや、一般の参加者を交えたタペストリー制作を実施。地下道を多様な人々が集い、感性が響き合う「体験と発見」の場へと変貌させた。

網の目のように地下道が広がる梅田のまち。Bas氏は今回のプロジェクトを通じ、この空間について「人々の挑戦を後押しする場としての可能性を秘めている」と語った。世界を舞台に活躍する彼が、大阪梅田のまちをどのように捉え、何を感じたのか。その視点に迫る。

Bas Kosters(バス・コスタース)氏

アムステルダム拠点のアーティスト/デザイナー。ファッションデザイナーとして注目を集めた後、テキスタイルを軸にドローイング、立体、陶芸へと表現を拡張。オランダの国立美術館「Rijksmuseum Twenthe」で大規模回顧展を開催するなど、欧州を中心に美術館、ギャラリー、アートフェアで活動する。

梅田の地下道という空間を、人とアートが出会う場所へ

―― 今回、OADでは大阪駅前地下道で作品を展示されました。展示場所としての地下道にどのような印象を持ちましたか。

Bas氏(以下Bas) 今回のインスタレーション(空間芸術)の舞台である地下道は、目的地へ向かうための通過地点だといえます。普段なら通り過ぎてしまう場所にアートがあることで人々が立ち止まり、毎日のルーティーンの中に作品との出会いや、人との交流が生まれる。その瞬間をつくれるのは、とても面白いチャレンジですし、それこそがアートの意義だと感じました。

さらに海外とは異なり、梅田の地下道には破壊等の安全性や作品管理面での懸念がなかったことにも感動しました。パブリックな場所でアート展示やワークショップがこれほど安心して実施できることは、世界的に見ても極めて安全性が高い日本だからこその誇るべき環境だと思います。

―― 公の場でもある地下道の活用は、日本ならではの特別な環境だと感じてくださったのですね。今回のプロジェクトに伴い滞在した大阪は、Basさんの目にどう映りましたか。

Bas 東京に2カ月半ほど滞在した経験もありますが、大阪には独自の魅力がありますね。滞在していた中崎町は、自転車で移動する人も多く、ローカルな情緒が漂っている点に惹かれました。観光地化された場所だけではなく、人々の生活が垣間見える住まいや庭先といった、日常の風景を観察する時間は非常に興味深いです。

佐賀県有田町での滞在制作から生まれた《Sorry Boy》のタペストリーを含め、様々な作品が展示された

国や学校の垣根を越えたアートプロジェクト
――ものづくりが切り開く協働の可能性

――日常の風景に目を向けておられるBasさんだからこそ、梅田の地下道は人が交わる場として見えているのかもしれませんね。
今回実施されたプロジェクトでは、関西の服飾・デザイン系専門学校3校の学生たちと、廃棄予定の残布を再利用したタペストリーを制作するワークショップに取り組まれました。 言葉の壁を越えた協働を通じて、どのようなことを感じられましたか。

Bas 今回ワークショップに参加した日本の学生たちは、世界の若者たちと同様に、自らのアイデンティティや将来を深く考え、葛藤しながら生きていることを感じました。彼らの作品や装いからは、"カワイイ"という文化やファッションなど、日本独自の感性がダイレクトに伝わってきましたし、相手を尊重する誠実な姿勢やコミュニケーションを通じて、日本文化への理解を深められた体験は意義深いものでした。

――異なる3校の学生が一緒に制作するプロジェクトでもありましたが、学生たちの様子はいかがでしたか?

Bas お互いに協力し合う様子がとても自然だったので、これまで一緒に活動したことがなかったとは全く想像できませんでした。
私が活動の拠点にしているアムステルダムでは、日常的に学校の垣根を越えたアートプロジェクトを行っています。今回の試みをきっかけとして、日本の学生たちが他校の学生と交流し、創作する機会を得られたことはとても喜ばしいです。異なる背景を持つ人たちが関わり合うことは刺激的ですし、この先のアート活動においても貴重な財産になるはずです。この経験をきっかけに、今後も交流を続けてほしいですね。 

――制作を行う中で、学生たちの未来や可能性についてどのように思われましたか。

Bas 25人も学生がいれば、当然それぞれに個性や得意分野は異なります。ただ、全員に共通して見られたのは「学びたい」「創りたい」という強い意欲です。一人ひとりに大きな成長の可能性を感じました。
そうした彼らの熱意に加え、この場に参加し、真剣に向き合ってくれた彼らの姿勢そのものに、私は何よりも拍手を送りたいです。ワークショップに参加した学生たちの将来がとても楽しみです。

タペストリー制作ワークショップの様子

まちにポジティブな力を生み出す、日常でパブリックアートに触れる体験

――Basさんは海外でも継続的にワークショップを実施されていると思いますが、その理由を教えてください。

Bas 多くの人にとって何かを創作するという行為は、普段の生活ではあまり馴染みのないことかもしれません。だからこそ、日常から少し離れて創造できる場所や機会を設けることは、人々にとって自由をもたらすものだと考えています。 

世界に目を向けると悲しい出来事もたくさん起きています。しかし、人々が一緒に何かを創るポジティブな時間は、国や人種などの垣根を越え、エネルギーが循環する様子を世界へ送り出すことにつながるはずです。そのような時間と空間を提供することが、私自身にとっての喜びだと感じています。

―― 最後に、大阪梅田や地下道を誰もが挑戦できる場所とするために、どのようなアクションが必要だとお考えでしょうか?

Bas 梅田は、まちに膨大なエネルギーが溢れる素晴らしい場所です。例えば、梅田の地下道に常設のアートスペースを設け、日常的に誰でも創作に参加できるプラットフォームにできたら面白いのではないでしょうか。

クリエイターが自ら企画を持ち込み、多様な人々がつながれる仕組みがあれば、地下道は単なる通過地点ではなく、いつでも新しい何かが立ち上がる目的地になり得るかもしれません。梅田の地下道でアートに触れられる機会が当たり前の風景となったとき、このまちはもっとエキサイティングな挑戦の場になるはずです。

Bas氏が仕掛けた今回の実験的なプロジェクトは、1日数十万人もの人々が行き交う梅田の地下道を、多様な感性に出会い、喜びを共有する「体験と発見」の舞台へと一変させた。梅田に広がる地下道という特有のインフラについて、Bas氏は、そこが単なる日常的な通り道ではなく、アートによって人々を惹き付ける目的地へと変貌し得る可能性を証明した。 

そしてこの試みは、地下道という一つの場所のポテンシャルを示すにとどまらず、梅田というまち全体が新たな価値を生み出しうる土壌を備えていることも浮かび上がらせた。多様な人々が集い、アイデアが融合するこのまちでは、クリエイターや学生、そして企業が一体となることで、新たな風景を切り拓いていくことができる。梅田はこれからも、新しい取り組みが立ち上がる場所として進化を続けていくだろう。 

【関連サイト】
・Osaka Art & Design 2026
 https://www.osaka-artanddesign.com/

・Bas Kosters(バス・コスタース)氏 公式サイト
 https://baskosters.com/

【協力】
・ヴォートレイル ファッションアカデミー
 https://voutrail.jp/
・大阪モード学園
 https://www.mode.ac.jp/osaka
・マロニエファッションデザイン専門学校
 https://maronie.ac.jp/

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