現代美術作家 平子雄一が語る、
都市空間におけるアートの役割と魅力

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多くの人々や多様なエネルギーが行き交う、大阪梅田。圧倒的なスケール感を持つまちの都市空間は、次世代の表現者たちが自身のクリエイティビティを社会へダイレクトに実装できる「挑戦の舞台」でもある。

「Osaka Art & Design(以下、OAD) 2026」のプログラムとして、大阪梅田ツインタワーズ・ノース1階コンコースと阪急うめだ本店のコンコースウィンドーを舞台に展開された、現代美術作家・平子雄一氏による大規模インスタレーション「LAMPENFLORA(ランペンフローラ)|照明植生」。
鮮やかな色彩表現で知られる平子氏。だが、今回挑んだのは、幅が約 16.5 m、高さ約 9 mのコンコースをモノクロームのドローイングのみで構成する、自身にとっても新たな挑戦だった。多くの人が行き交う梅田の玄関口を舞台に、アートによる新たな景観づくりに挑んだ本プロジェクトは、都市空間におけるアートの可能性を示す試みともいえる。

なぜ平子氏は、制約の多いはずの公共的な空間でモノクロームの表現を成立させることができたのか。その背景には、大阪梅田に深く根付く、アーティストの妥協なき挑戦を受け止める先進性と、ユニークな表現を受け入れる寛容さが存在している。
梅田ビジョンが掲げる独自価値「体験と発見」。それは鑑賞者だけでなく、このまちをカンバスにするクリエイター自身にも開かれている。世界で活躍する作家の視点から、梅田というまち持つポテンシャルを紐解いていく。

目次
1. 都市の日常を塗り替える「黒」の衝撃。巨大な都市空間をカンバスに変える
2. 個人の「当たり前」を崩す体験。アートが生み出す「余白」と「違和感」
3. アートと市民の距離を縮める――若手アーティストのチャレンジを受け入れるまち、梅田を目指して
4. 次の一歩を踏み出すためのきっかけを、梅田から。

平子 雄一氏

1982年岡山生まれ、東京を拠点に活動。
2006年に英国のウィンブルドン・カレッジ・オブ・アートの絵画専攻を卒業。植物や自然と人間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を行う。
ペインティングを中心に、ドローイングや彫刻、インスタレーション、サウンドパフォーマンスなど、表現手法は多岐にわたる。韓国、台湾、英国、アメリカなど、国外でも精力的に作品を発表している。

都市の日常を塗り替える「黒」の衝撃。
巨大な都市空間をカンバスに変える

――今回のお話を受けた時、梅田のコンコースにどのような印象を持たれましたか?

平子 圧倒的なスケール感に正直「これはどうしたものか」と思いましたね。
僕はこれまで、美術館など作品を鑑賞する目的で集まる人々がいる空間内で作品を発表してきました。一方、コンコースは主にビジネスパーソンが通勤などの移動目的で利用する公共的な空間。日常的に人が行き交う場所で、いかに視覚的なインパクトを生み出せるか。空間のスケールと用途、双方の面から大きなチャレンジになると思いました。

――鮮やかな色彩表現で知られる平子さんが、今回あえてモノクロームという表現を選ばれた理由を教えてください。

平子 これまでの僕の作品を見てオファーしてくださっているので、きっと色鮮やかな作品を想像されていたと思います。特に当初のアイデアは、空間全体を黒で覆うようなものでしたから、プロジェクトの事務局の方々はすごく驚かれていました。

大阪を訪れていた学生の頃から、大阪梅田にはニューヨークのような多種多様な要素で満ちているごちゃ混ぜ感や、人々に圧倒的な活力が渦巻いていることを感じていました。現地での視察を経て、そのエネルギッシュで多彩な大阪を改めて感じたからこそ、あえて対極の「黒」を用いることでコントラストを作りたかった。通勤で利用する方々が、慌ただしい日常の中でも「なにかいつもと全く違うことが起こっている」と、つい足を止めてしまう、別空間になったようなインパクトを生み出したいと考えました。 

施工現場に立ち合う平子氏。コンコースでは天井のバナーからウィンドー、そして床面へと、ダークブラウンを基調としたドローイングが展開された。

――平子さんのこの新しいモノクロームの世界は、梅田だからこそ生まれた表現だということですか?

平子 そうですね。これが他の都市だったら、おそらく違う表現になっていたと思います。
梅田は飲食店も含めてギュッと集積されているイメージ。だからこそ、まちが持つ熱量や行き交う人々の力に僕自身もすごく影響を受けながら制作しました。あの場所でしか生まれない、いまの自分ができる最大限の表現ができたと思っています。

個人の「当たり前」を覆す体験。
アートが生み出す「余白」と「違和感」

――今回の作品を通して、観る人にどのような体験をしてほしいと考えていますか?

平子 基本的にアート作品というのは、鑑賞者がそれぞれ自由な感性で楽しんでもらえたらいいと思っています。ただ僕自身は、作品を通して観る人の心の中に余白、いわば違和感や疑問のようなものを少し生み出すことができれば成功だと考えています。「あれは何だったんだろう、でも不快じゃない」という感覚が生まれたとき、 人はその余白を埋めるために行動を起こすかもしれない。その時にどのような変化や行動が生まれるのか、とても興味があります。

――余白の部分が、平子さん自身の活動のテーマである「植物や自然と人間の共存」へ繋がるのでしょうか。

平子 自然という概念はすごく曖昧なものですよね。イギリスのロンドンに滞在していた時、美しく整備された公園を見た友人が「自然っていいね」と言ったことに、違和感を覚えました。なぜならそれは、僕が生まれ育った岡山県の自然とはかけ離れていたからです。しかし、この違和感をきっかけに調べていくと、僕にとって馴染みがあると思っていた風景も実は干拓地であり、人の手によって造られた自然だったと気づきました。

私たちが自然に対して抱くイメージは、全世界・全人類共通の認識ではありません。都会から見ると自然は基本的にポジティブな表象ですが、自然のそばで暮らす人々には脅威となり得るかもしれない。
そうした当たり前に信じていたものが崩れていくような体験、つまり個人の心の中に「余白」を作ることこそが、アートの役割なのだろうと考えています。僕はそれを、強いメッセージを押し付けるのではなく、優しい方法でアプローチしていきたいですね。

阪急うめだ本店の祝祭広場でもSACRED TREE「シンボク」プロジェクトが展開された。そこに展示された作品名「Sacred Tree 01」と平子氏

アートと市民の距離を縮める
――若手アーティストのチャレンジを受け入れるまち、梅田を目指して

――世界各地で作品を発表されている平子さんから見て、梅田というまちにどのような可能性を感じますか?

平子 アートは単体ではなく、作品とシチュエーションがあり、受け取る人がいて初めて成立するものです。受け取る側の自由なまなざしや解釈が加わることで、アートはより豊かなものへと成熟していくのだと思います。

大阪には、日常のコミュニケーションの中に"お笑い"に代表されるような、新しいものやユニークな表現を許容する土壌がすでに仕上がっていますよね。この高い受容性がアートにおいても発揮されれば、もっと特色のある面白いまちになると思います。
OADのような取り組みを通じて、いい作品に触れる機会が増える。そこから上質なものを見極める市民が増え、目の肥えた市民が認めるアートが根付いていく。大阪にはそのような好循環が起こるポテンシャルが大いにあると思いますし、今回OADに参加させていただいた背景にはそういう想いもありました。

――大阪の風土的な面白さもあり、今回のプロジェクトに興味を持っていただいたのですね。大阪の若手アーティストについてはどう感じますか?

平子 大阪には面白い若手アーティストがたくさんいます。ただ現状は、活動の場を求めて東京や海外へ視野を広げる作家も多いと思います。
彼らが地元で活動を続けるためには、梅田をはじめとするこのエリアで、持続的なマーケットが確立される必要があります。時間はかかるかもしれませんが、大阪で"いい作家といい受け手がいるまち"というサイクルが成立する可能性は十分にあると信じています。
僕自身としても、これまでアートに触れてこなかった人々に、もっとアートに親しんでもらえる機会を増やすことを課題として持ち続けてきました。今回は、毎日何十万人もの人が行き交う環境で作品を見ていただける、本当に良い機会を得ることができました。

阪急うめだ本店9階の阪急うめだギャラリー・アートステージでは、平子氏が参加を呼び掛けた若手アーティストたちが作品を展示した

――最後に、これから若い世代のアーティストたちへメッセージをお願いします。

平子 肩の力を抜いて、表現することそのものを楽しみながら制作を続けていってほしいですね。「チャレンジ」という言葉を使うと、前のめりに挑戦し続けなければいけないようなイメージを持つかもしれません。しかし、作品づくりは10年、20年と息長く続けていくことで初めて成果が見えてくるもの。「覚悟を決める」と気負いすぎず、まずは自らの表現を楽しむスタンスを大切にしてほしいと思います。

次の一歩を踏み出すためのきっかけを、梅田から。

毎日何十万人もの多様な人々が行き交う梅田のコンコースは、単なる通路ではなく、まだ見ぬ表現を多くの人々の日常へと届ける最高のファーストステージになり得る。

「いい作家と、それを育てるいい受け手(市民)がいるまち」へ――。ユニークさを愛する大阪梅田という舞台だからこそ、気負うことなく、新しい挑戦を始めることができる。ここには、表現者と鑑賞者が刺激を与え合いながら新たな都市文化を育んでいく、その熱量を受け止める確かな可能性の広がりを感じさせる。

【関連記事】
・平子雄一氏 Instagram
https://www.instagram.com/yuichihirako/

・Osaka Art & Design 2026
https://www.osaka-artanddesign.com/

・梅田遊園プロジェクト
https://umedayuen.com/

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