
梅田エリアの価値向上に向けた構想「梅田ビジョン」。
梅田のあるべき姿として、『創造』『出会いと交流』『体験と発見』を3つの「独自価値」と定め、それらを高めることで世界から選ばれるまちとなることを目指している。本記事では、梅田のまちがエネルギー溢れる『体験と発見』の場となったフェスティバルの模様をレポートする。
再開発が進む大阪梅田を、人の心を動かすまちへ――。そんな想いのもと、毎年クリスマス前に開催されている「梅田ゴスペルフェスティバル」は、今回で10回目を迎えた。今回は、JR大阪駅・大阪ステーションシティ 5階「時空(とき)の広場」と梅田・茶屋町にあるOIT梅田タワー 3階「常翔ホール」で開催。まちそのものをステージに見立てたイベントには、幅広い世代そして彩り豊かなメンバーによるゴスペルクワイア(グループ)が集い、想いのこもったパフォーマンスを披露した。祈りや感謝、希望を表現した歌詞で声を合わせる喜び、人々への賛歌。魂が躍動する感動のステージに、梅田が持つ"人の心を動かす舞台"としての力を感じた。

阪急阪神不動産 開発事業本部 都市マネジメント事業部
梅田を"印象に残るまち"に――フェスティバル誕生の背景
全国でもトップクラスの人通りを誇る大阪梅田。果たしてそれが都市の魅力として、また都市の競争力として有効に働いているのか。梅田といえばこれ、と印象に残る風景は何なのか。10年前、阪急阪神不動産の大谷さんは、そのような問いになんらかの答えを出すべく、アイデアを練っていたと話す。
「実際、ワーカーや学生、旅行者といった多種多様な人々にとって、梅田の印象はさまざま。梅田を訪れた日の5年後、10年後にも印象に残るような記憶を持ち帰ってほしい。そのためのリソースとして、あらためて阪急というブランドと文化的基盤にまず立ち返りました」。
宝塚歌劇に代表される華やかなエンターテインメント、阪急百貨店のブランドイメージ、沿線に根付く歴史や文学といった文化的資産、これらを象徴させる取り組みができないか。それには世代や国境を越えて人々が理解し合える音楽イベントがよいのではないか。
「ゴスペルは、一人ではなく複数の人が声を合わせて歌い、メッセージを届ける音楽です。そして、子どもから年配の方までが同じステージで合唱している姿、人々が歌によってつながり、笑い合い、時には涙を流しながら歌う姿。さらに、その姿に触れた人々の心が動く、そんな感動の波というものをゴスペルに感じました。梅田を訪れた人々が、この心の動きを原動力として、次の一歩を踏み出してほしい――そんな願いからこのイベントを始めることにしました」。
大谷さんはそんな想いを持って、親交が合ったTHE SOULMATICS代表の池末信さんに相談をもちかけたのだという。池末さんからは単なるコンサートではなく、「コンペティション形式にしてはどうか」という提案が。勝ち負けではなく、「毎年参加者が互いに高め合い、観客は心動かされ"次は自分も""私にも何かできる"と思えるイベントに育てよう」という狙いからの提案だった。
こうして、まちゆく人に音楽の力を届ける Gospel Showcase(ショーケース)、事前審査を通過したクワイアによる Gospel Competition(コンペティション)という2部構成でのゴスペルイベント「梅田ゴスペルフェスティバル」が生まれた。

THE SOULMATICS代表
行き交う人に想いよ届け――「時空の広場」での「ショーケース」
ショーケースが行われたのは、JR大阪駅・大阪ステーションシティ 5階の「時空(とき)の広場」。クリスマスイルミネーションが輝く季節、JR大阪駅構内に位置する開放的な空間で、11組によるパフォーマンスが繰り広げられた。各クワイアのパフォーマンスにはそれぞれ違った魅力があり、広場全体が歌声で満ちていく。

出場クワイアは大阪からだけでなく、名古屋、福岡からも。年代も幅広く学生から60代まで、そして初開催から参加する常連クワイアなど、個性豊かな面々が歌うゴスペルは、選曲もバリエーション豊か。ドラマチックに歌い上げるパフォーマンス、ソロとコーラスのかけ合いで観客を盛り上げるパフォーマンス、しっとりと歌い上げるソロパートなど、ゴスペルの奥深さと懐の深さを感じさせる内容となっている。それぞれの構成も魅力的で、ステージ前に設けられた席はすぐに満員に。立ち見客が出るほどの注目度で、「予定にはなかったけれど、思わず足を止めた」という人々の姿も見られた。
常翔ホールでの「コンペティション」――梅田が生んだ本気のステージ
ショーケースを終えると、コンペティションがいよいよ始まる。コンペティションは、茶屋町にある大阪工業大学梅田キャンパス内の「常翔ホール」で開催された。チケットは事前予約だけで満席となり、イベント認知度が高まっている証といえる。客席には学生、社会人、家族連れ、外国人など多様な顔ぶれが並び、「梅田らしい多様性」を象徴する光景が広がっていた。

10組のクワイアが披露したのは、どれも"本気の挑戦"。コンペティションでは、声量や技術だけでなく、パフォーマンスを含めて「メッセージをどう届けるか」に全力が注がれる。
一人ひとりの想いを込めた歌声が重なり合い、チーム全体の表現として昇華されていく――。どのクワイアからも、時間をやりくりして練習を重ねた熱量が伝わってくる。
複数の参加者からは「この舞台に立つことが夢だった」という声も上がっており、当初の狙いだった「心を動かす舞台」としても評価を得ていることがわかる。新型コロナウイルス感染拡大の時期においても、動画配信などの工夫で、毎年実績を重ねてきた同イベント。記念すべき第10回「梅田ゴスペルフェスティバル」は、人々の拍手と笑顔に包まれた。
コンペティションを終えたクワイアのメンバーからも、充実感にあふれる声が寄せられた。その一部をご紹介しよう。
East Joyful Offering/チャレンジすることを忘れないで、と伝えたい

「初めてこのフェスティバルを観客として訪れたとき、"いつか絶対にここで歌いたい"と思いました」。そう語る中山朱美さん(写真左)と、中山さんに誘われゴスペルを始めた息子さん(中山士綺さん)が活動するEast Joyful Offeringは、今回が2回目の出場。「私がそうだったように、"願えば叶うから、チャレンジすることを忘れないで"と伝えたい」。前回の中山さんの姿を見て、今回の出場を決意したゴスペル仲間もいるそう。一人の挑戦が次の挑戦者を生む、本イベントの象徴的な存在だった。
Osaka Victory Choir/応援し合える仲間との出会いは財産

2025年5月に結成されたばかりのOsaka Victory Choirも、初出場とは思えない堂々としたパフォーマンスを披露。「ゴスペルは人生の歓びを歌うものだから、間違えてもいいし、自由でいい」とシルベ・レングさん(写真左)。松原典子さんは「今のクワイアのメンバーはもちろん、それ以外のゴスペル仲間との出会いや来場してくれる人々との出会いなど、応援し合える仲間がいるのは財産」と語ってくれた。
Osaka Mass Choir/梅田という大都市で多様な人の前で歌える経験は貴重

前回の優勝クワイアであり、今回も圧倒的な表現力を見せたOsaka Mass Choir。「一度優勝すると、次に向かうプレッシャーが大きい。どうすれば仲間が"心から歌える場"をつくれるかをずっと考えていました」とディレクターの山本隼也さん(写真左)。「こういう大きなまち・梅田で、これだけ多様な人の前で歌える経験は本当に貴重」と語ってくれた石原なつみさんは、ソロとして審査員特別賞を受賞。「感謝を届けたい」というテーマのもと、全員で全力を出し切った舞台だった。
人の心を動かすまち――梅田という"器"の力
すべてのコンペティション終了後、結果発表までの間にTHE SOULMATICSのゲストライブ、そして結果発表後の優勝クワイアパフォーマンス後には、全出場クワイアによるAll Gospelが行われた。各クワイア全員で池末さん作詞作曲の『We are all one』を合唱すると、会場全体が一体となり、熱気と希望に満ちた歌声が響き渡った。

審査委員長のジョシュア佐佐木さんは今回の開催を次のように振り返る。

「梅田は、関西で最も多くの人が行き交う場所です。再開発でまちが大きく変わり、多様な人が出入りする今、この場所で"祈り"や"励まし"といったゴスペルの力を広く届けられるのは非常に意義があります」。また、若い世代の参加についても、成長を実感したという。「ゴスペルは、ひとりではできない音楽。周囲と心を合わせ、声を重ねながら、若い人たちがどんどん成長していく"場"でもあります。日本に今必要なのは、こうしたコミュニティの力だと思います」。人を励まし、癒し、支える音楽。その力を、日本の中でも人の流れが大きい梅田から発信することに大きな価値がある――そう力強く語った。

MCを務めた毎日放送の清水麻椰アナウンサーは、会場を包む熱気に胸を打たれたという。「学生からシニア世代まで、誰もがステージ上で『自分の表現』を爆発させていました。これほど真っ直ぐに挑戦できる場所は、そう多くありません」。機会の貴重さを語る一方で、街とイベントが生み出す相乗効果についても言及。「大阪梅田の阪急うめだ本店はクリスマスイルミネーションが素敵なことでも知られていますよね。その大阪梅田で阪急電鉄がこのようなイベントを開催することで、イルミネーションに「歌声」と「熱気」が加わり、クリスマスの梅田がより特別になると思います。今後さらに愛されるイベントになっていくのでは、と期待しています」と笑顔を見せた。
梅田からはじまる次の挑戦へ――あなたの"一歩"をまちが支える
2025年の梅田ゴスペルフェスティバルは、10年目という節目を迎え、当初目標とした「心を動かす舞台」への役割をしっかり果たしたものとなった。「時空の広場」から「常翔ホール」まで、まちそのものがステージとなり、一人ひとりの挑戦を受け止め、次の挑戦へとつないでいく――という"循環"が確かに生まれた一日。そんな達成感を得た大谷さんは、今、次なる夢を描いているという。
「挑戦というのは何もフェスティバルに出場することだけではありません。このイベントをきっかけに多くの方が「感動した」「元気が出た」と心動かされ、それぞれの目標や夢に向かって"一歩め"を踏み出してもらうきっかけになることを強く願っています。今後はゴスペルというジャンルに留まらず、さまざまな音楽が集う多様性のあるイベントに成長させたいと考えています。"梅田芸術祭"とでもいうような、梅田というまちが音楽で包まれ、多くの人々の一歩めを支えるような取り組みに育てていきたいですね」と、次なるステージへの期待を語ってくれた。
一人ひとりの一歩めを支える――。梅田は、これからもそんな"心を動かす舞台"として、まち自らが成長を遂げていくことだろう。