宝塚歌劇が選んだ、
大阪梅田エリアという「舞台」

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梅田エリアの価値向上を図る構想「梅田ビジョン」。
梅田のあるべき姿として、『創造』『出会いと交流』『体験と発見』を3つの「独自価値」と定め、それらを高めることで世界と関西をつなぐ「国際交流拠点」となることを目指している。
本記事は、2025年、111周年という節目を迎えた宝塚歌劇が、梅田を舞台に展開した『TAKARAZUKA FANtastic Christmas in UMEDA』への挑戦を通じ、多くの人々との新たな『出会いと交流』と、舞台に留まらないコンテンツの拡張による『体験と発見』を生み出したイベントの模様をレポートする。

111周年を迎えた宝塚歌劇の取り組みとは

宝塚歌劇は2025年に111周年を迎えた。節目の年として掲げたスローガンは「One and only きらめきの、その先へ──。」。周年を"回顧"で終わらせず、これからも唯一無二のきらめきと存在感を未来へとつないでいく決意に満ち溢れた言葉だ。
「宝塚歌劇の111周年を盛り上げよう、という気運の中で、9月に予定していた記念式典に加え、周年の締めくくりとして12月にイベントを開催することで、一つの流れでとらえて展開していく方向性が決まりました」と語るのは、阪急電鉄 創遊統括部の齋藤智子さん。
ファンや来場者に喜んでいただけるイベントにするにはどうすればよいか。そんな試行錯誤のもと、実現したのが今回の『TAKARAZUKA FANtastic Christmas in UMEDA』だ。

『TAKARAZUKA FANtastic Christmas in UMEDA』に携わった関係者の皆さん。
写真右端:阪急電鉄 歌劇事業部 小坂 裕二さん、右から3番目:宝塚クリエイティブアーツ 小林 紗矢香さん、右から4番目:阪急電鉄 創遊統括部 齋藤 智子さん

「今回のイベントには、 "ご愛顧いただいているお客様への感謝"と"新たなお客様との出会いを生む"という2つの目的がありました。各組スターのトークショーは休演期間中の宝塚大劇場を飛び出し、梅田芸術劇場で開催することが決まりました。ですが、トークショーは宝塚歌劇を日頃からご愛顧いただいている宝塚友の会の会員限定としたため、トークショーにご参加いただけないお客様でも楽しめるイベントにしたいと考えたときに、交通のハブである大阪梅田の強みを活かし、劇場の外に滲み出ていくイメージで周辺エリアまで広げて開催することが決定しました。梅田は、色々な目的を持った幅広い層の人々が行き交う街ですので、宝塚歌劇がより多くのお客様と交流を図るには最適だと判断しました」と齋藤さんは続ける。

梅田芸術劇場単体で開催するイベントではなく、まち全体が盛り上がるものにしたい――。検討を重ねる中でたどり着いたのが、様々な事業者が共同で梅田のまちの魅力を発信する冬のエリアイベント「UMEDA MEETS HEART」との連携だった。クリスマスのイルミネーションでまちがキラキラときらめく中でのイベントは、「One and only きらめきの、その先へ──。」という宝塚歌劇111周年のスローガンとも親和性が高く、LEDビジョンやタペストリー、等身大パネルの展示など、華やかでオーセンティックな宝塚歌劇の世界観が街中に展開された。

数々のチャレンジで、宝塚歌劇の新たな魅力を発信 

こうした中、2025年12月20日、21日の2日間にわたって開催された「TAKARAZUKA FANtastic Christmas in UMEDA」では、前夜祭も含め、7つのコンテンツが展開された。

まず11月7日から、アプローズタワー恒例のクリスマスツリーを、宝塚歌劇の舞台衣装を使用した豪華な111thアニバーサリーツリーに。そして前夜祭として、東京宝塚劇場で上演中だった宙組公演『BAYSIDE STAR』のライブマルチアングル配信が初めて行われた。イベント当日は宝塚歌劇団スターによるスペシャルトークショーが開催され、さらに特別装飾・展示やキッチンカーの出店、CS放送「タカラヅカ・スカイ・ステージ」とコラボレーションしたカフェや、オリジナルグッズの販売なども展開された。

マルチアングル配信やキッチンカー、グッズ販売における有料体験コンテンツなど、今回のイベントには宝塚歌劇としての新しいチャレンジがたくさん詰まっているという。
「宝塚歌劇というと、唯一無二のオーセンティックな文化という認識があると思います。もちろん、その通りではあるのですが、実は歌劇作品自体は、さまざまなゲームや映画、漫画原作の舞台化など新しいコンテンツを常に意識して生み出しています。最近ではLDHさんとコラボした舞台もあり、新しいエンタテインメントにチャレンジし続けています。宝塚歌劇に対する新たな発見といいますか、老若男女問わず様々な層のお客様にも知っていただくための仕掛けづくりには、常に意識して取り組んでいます」と語るのは、宝塚クリエイティブアーツの小林紗矢香さんだ。

今回のイベントでは、グッズ販売においても"体験をマネタイズする"という試みに初めて挑戦したという。宝塚歌劇オフィシャルショップのオリジナルキャラクターのチャームを使い、自分だけのキーホルダーを作るというワークショップが行われた。「今回は、もともとあるキーチャームを再利用し、そこに"体験"という新しい付加価値をつけたことがポイントでした。おかげさまで反響も大きく、既存アイテムをアップサイクルするというSDGs的な要素も含め、事業としての可能性が広がる結果となりました」と小林さん。

「Fantastic ワークショップ~レヴィとネムのクリスマスキーホルダーづくり~」には多くの参加者が詰めかけ、待ち時間ができるほどの盛況に(写真左)。写真右は出来上がったキーホルダー

イベントキービジュアルや展示写真についても、新たなファンにもなじみやすいよう、これまでの宝塚歌劇のイメージとは印象を変えたものにすることにこだわった。豪華な衣装やメイクで華やかさを出すようなものではなく、シンプルシックでありながらもスターの輝きが引き立つ、シャツスタイルやジャケットスタイルで撮影した写真を使用した。

渞(みなもと)忠之氏撮影による今回のメインビジュアルを映し出した大型ビジョン(写真左)と、レスリー・キー氏撮影による各組トップスターの等身大パネル。著名カメラマンが捉えたスターたちの都会的な姿は、梅田のまちを行き交う人々の目を引いた

小林さんは、さらに続ける。
「前夜祭のマルチアングル配信も、初の取り組みでした。東京宝塚劇場で上演している宙組公演を、動画配信サービス『TAKARAZUKA SQUARE【タカスク】』で、イベント前日の12月19日に配信したのですが、マルチアングルは視聴者がご自身の観たいアングルを手元で操作して切り替えるというもの。お気に入りのスターの動きを見逃す心配がなく、ファンの皆様にも、新しい映像サービスを楽しんでいただけたのではないかと思います」。

チャレンジは、グッズや舞台映像だけにとどまらない。「食」という面でのコラボも複数展開した。来場者それぞれのニーズに合わせ、コアなファンに向けたホテル阪急インターナショナル レストランコラボのほか、気軽に楽しめるカジュアルなコラボメニューも企画。また、梅田芸術劇場からほど近いMBS本社前に配置したキッチンカーでは、事前にSNSでメニュー名を公募したフードやドリンクを販売し、認知拡大につなげた。阪急電鉄 歌劇事業部の小坂裕二さんは、「SNSユーザーを巻き込んだキッチンカーでは、雨の中でも列に並んでフードやドリンクをお買い求めくださる来場客の姿が印象的で、まちなかでの展開の可能性を感じた」という。今後も、キッチンカーを組み合わせたイベントはぜひ検討していきたいという意向だ。

イベント限定のコラボメニューや、SNSでネーミングを募集したクレープなどが各スポットで提供された

「梅田」だからこそ実現した、広範な層とのタッチポイント創出

梅田という大都会でコンテンツをまちに繰り広げるには、イベント自体の画力だけでなく、交通・動線・安全・行政協議など、まちの各事業者との連携が重要となる。今回の成功は、阪急電鉄や梅田芸術劇場、MBSといったエリアの事業者と宝塚歌劇というコンテンツ事業者が「梅田というまちと人々を盛り上げる」という共通意識を持つことで達成できたといえる。

齋藤さんも「宝塚には観劇という決まった目的のもと訪れる人々がほとんどですが、今回のイベントでは、梅田のまちを訪れる中で偶然立ち寄ってくださった方も多かったと思います。特に印象的だったのは、外国人の方の来場が目についたこと。宝塚大劇場や東京宝塚劇場にも一定の割合で観劇に来られますが、まだまだ数は少ないので、インバウンドも含め、さまざまな属性の方と偶然の出会いを作り出せた梅田というまちの魅力は大きいですね」と続けてくれた。

エンタメコンテンツ×まちづくりのさらなる発展とは

今回の経験から見えてきたのは、エンタメとまちとのコラボレーションによって広がる可能性だ。小坂さんは、梅田でのイベントについて次のように語る。「今回のイベントでは、宝塚歌劇というブランドそのものが梅田というまちでビジネスとして展開していけるという実感を得ることができました。宝塚歌劇というエンタテインメントコンテンツをさまざまに展開することで、事業性の継続につながるビジネスが可能だという、非常にいい気づきになった体験でした」。

「今回の大阪梅田でのイベントの成功を踏まえ、長年ご愛顧いただいているお客さまから、最近ちょっと気になる、といったライトなファンの方まで幅広く楽しんでいただく新しい企画に今後もチャレンジしていきたい。新規の方にも幅広く、またハードル低く楽しんでいただけるようなデジタル系のサービスも色々と検討していきたいです」と、小坂さんは今後の展望を話してくれた。

また小林さんも、今回のイベントの手応えについて次のように話してくれた。
「宝塚歌劇は、100年を超える歴史をもつ"ネオ伝統文化"ともいえるコンテンツであり、日本を代表するエンタメだと思っています。今回のイベントは、宝塚歌劇の持つコンテンツ力を、改めて外から見て誇らしく思う瞬間でもありました」。
そして、今後についても「唯一無二の、関西から発信する宝塚歌劇という文化を、梅田のまちから世界中の方々に持ち帰っていただき、宝塚歌劇がお届けする夢や感動、それらに触れたときの高揚感を、皆さんに今一度知っていただきたい。また、静止画の世界観ではなく映像や体験を含めた"エンタメ"として発信し、お届けできればと改めて感じています」と力を込めた。

エンタメコンテンツをまちで展開するには、それがたとえ小規模であっても、単独の事業者だけでは実装が難しい。都市圏のハブ機能を持つ大阪梅田ではなおさらだ。コンテンツの華やかさとは裏腹に、実現にはさまざまな地道な調整が必要となる。そのような状況の中、宝塚歌劇は、新しい挑戦の姿勢をもって複数の事業者と連携し、梅田のまちの特性を活用して「出会いと交流」「体験と発見」を生み出す好例を示したといえるだろう。
今回の宝塚歌劇の取り組みは、梅田エリアとエンタテインメントが響き合う新たな歴史の始まりに過ぎない。このまちには、新しいチャレンジや表現を受け止め、多くの人々との「出会いと交流」を実現し、コンテンツの持つ「体験と発見」を共に楽しむ土壌が確かに整っている。単なる「イベント会場」という枠を超え、まちそのものがコンテンツを輝かせる力が梅田エリアにはある──今回のイベントの成功は、そのことを如実に物語っている。
次にこの「舞台」に立つのは誰なのか。梅田エリアを舞台として生まれる、エンタメコンテンツとまちづくりの新たな化学反応に期待したい。

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